
この夏、吉沢亮さんと横浜流星さんの圧巻の演技で記録的ヒットを飛ばした映画『国宝』。
しかし、この名作を生み出した李相日(リ・サンイル / り そうじつ)監督が若き日に体験した「脳天に杭を打たれた」ほどの衝撃的な映画体験があったことはあまり知られていません。
9月6日から開催される「ぴあフィルムフェスティバル2025」で明かされたのは、李監督の映画人生を決定づけた2作品の存在。そこには映画が持つ真の力が隠されていました。
李相日監督 主要作品
年代 | 作品名 | 受賞・評価 |
---|---|---|
2006年 | フラガール | 日本アカデミー賞作品賞 |
2010年 | 悪人 | 各種映画賞多数受賞 |
2025年 | 国宝 | 興行収入大ヒット |
PFFという映画界の甲子園で花開いた才能

2000年、運命を変えた『青chong』の衝撃デビュー
2000年、当時26歳だった李監督は日本映画学校の卒業制作『青chong』でPFF(ぴあフィルムフェスティバル)に挑戦。
結果は見事にグランプリを含む4部門独占受賞という快挙でした。
これが後に数々の名作を生み出す監督の輝かしいスタート地点となったのです。
「才能って面白いもので、きっかけさえあればポンッと弾けるんですよね」
まさにその典型例が李監督のデビューと言えるでしょう。
PFF47年間が築いた映画界への影響力
PFF(ぴあフィルムフェスティバル)の実績
今年のPFF2025は9月6日から20日まで東京・国立映画アーカイブで開催。
まさに映画界の登竜門として、半世紀近くにわたって新しい才能を世に送り出し続けています。
監督の原点となった衝撃の2作品

『さらば、わが愛/覇王別姫』- 芸術に生きる者の業を描く傑作
李監督が選んだ1作目は、1993年の中国映画『さらば、わが愛/覇王別姫』
陈凯歌(チェン・カイコー)監督によるこの作品は、京劇役者の半生を通じて激動の中国現代史を描いた傑作として世界的に評価されています。
作品データ
- 監督: 陳凱歌
- 主演: レスリー・チャン、張国榮
- 受賞: カンヌ国際映画祭パルム・ドール
- テーマ: 芸術への献身と時代の激流
この作品が李監督に与えた影響は計り知れません。
「芸術に生きる者の業」というテーマは、後の『国宝』で歌舞伎役者の世界を描く際の核心となったのでしょう。
表現者が抱える宿命的な苦悩と美しさ—まるで蝶々が美しく舞うために羽を痛めるような、そんな矛盾した魅力が詰まった作品だったに違いありません。
『復讐するは我にあり』- 人間の暗部を容赦なく描く衝撃作

2作目は今村昌平監督の1979年作品『復讐するは我にあり』
実在の連続殺人事件を基にしたこの作品について、李監督は「平和ボケを享受して生きてきた自分の脳天に杭を打たれた忘れ難き映画体験」とコメントしています。
今村昌平監督の特徴
- 代表作: 『楢山節考』『うなぎ』など
- カンヌ受賞: パルム・ドール2回受賞
- 映画哲学: 人間の本能的な部分を赤裸々に描く
「安全な日常に慣れ親しんだ現代人に、人間の本質的な部分を突きつけてくる」—これこそが映画の真の力。
李監督にとって、この作品は単なる娯楽を超えた人生観を揺さぶる体験だったのでしょう。
「せめぎ合い」から生まれる作品の鋭さ

李監督が語る創作の核心
読売新聞のインタビューで李監督は「せめぎ合いが作品を鋭くする」と語っています。
これは実に深い言葉ですね。
対立があるからドラマが生まれ、葛藤があるから心に響く物語になる。
『国宝』でも、歌舞伎の世界での師弟関係や芸への執念といった「せめぎ合い」が物語の背骨となっています。
李監督作品の「せめぎ合い」要素
- フラガール: 伝統と革新の狭間
- 悪人: 善悪の境界線の曖昧さ
- 国宝: 芸術への献身と人間的な欲望
まさに「押し合いへし合いしているうちに、気づいたら山頂にいた」みたいな感じでしょうか。
2025年PFF注目ポイント
「私のヌーベルバーグ作品」特集の価値
今年のPFFでは「私のヌーベルバーグ作品」という特集企画があり、李監督を含む8名の監督が自身に影響を与えた作品をセレクト。
参加監督と選出作品の傾向
- 世代: 1960年代〜1980年代生まれ
- 作品年代: 1970年代〜1990年代が中心
- 共通点: 既成概念を覆す革新性
ヌーベルバーグ(新しい波)は元々1950年代末のフランス映画運動を指しますが、ここでは「新しい映画表現への挑戦」という意味で使われているのでしょう。
若い映画作家にとって、先輩監督たちの「原体験」を知ることは宝の山。
まるで料理人が師匠の隠し味を教わるような、貴重な機会と言えるでしょう。
映画が人生を変える瞬間の魔法
表現の力が持つ無限の可能性
映画は単なる娯楽の枠を超え、時として人生を根底から変える力を持っています。
李相日監督の歩んできた道のりが、まさにその証明ではないでしょうか。
映画体験のレベル分類
- 娯楽レベル: 楽しい時間を過ごす
- 感動レベル: 心に何かを残す
- 影響レベル: 考え方が変わる
- 変革レベル: 人生の方向性が変わる
李監督の場合、明らかに「変革レベル」の体験だったわけですね。
現代に必要な映画との向き合い方
私たちも映画を観る際、ただ受動的に楽しむだけでなく、「この作品は何を伝えようとしているのか?」「自分の人生にどんな新しい視点をくれるのか?」と能動的に向き合ってみてはいかがでしょう。
そうすることで、きっと思わぬ発見や気づきがあるはず。
映画館を出た時に「なんだか世界の見え方が変わった気がする」—そんな体験ができたら最高ですね。
まとめ:PFF2025で感じる映画の力
李相日監督の原点となった2作品の話は、映画が持つ真の力を改めて教えてくれます。
一本の映画が若者の人生を決定づけ、後に多くの人に感動を与える作品を生み出すきっかけとなる。
そんな映画の魔法を体感できるPFF2025。47年の歴史が証明するように、ここから次の時代を担う新しい才能が生まれてくるかもしれません。
「映画って本当に面白い」—
そんな当たり前のようで奥深い感情を、改めて味わえる貴重な機会。
時間が許せば、ぜひ足を運んでみてください。
きっと何かが心に響くはずです。

