こんにちは、なおじです。
伊東純也選手の名誉毀損訴訟は、刑事と民事で異なる法的争点を浮き彫りにしています。
刑事で不起訴、検察審査会でも「不起訴相当」——それでもなぜ2億円の民事訴訟は続くのか。
2025年1月、大阪第2検察審査会が伊東純也選手と女性2人の双方について「不起訴相当」と議決しました。
刑事事件としては完全に終結した形です。
しかし、東京地方裁判所で係属中の民事訴訟は、刑事とは異なる基準で「虚偽告訴による損害」を争い続けています。
35年間社会科を教えてきた立場から見ると、この事案は刑事と民事の法的評価の違いを理解する上で、極めて重要な教材と言えます。

この記事でわかること
- 伊東純也選手の名誉毀損訴訟が刑事終結後も民事で争われる法的理由
- 検察審査会の「不起訴相当」議決が持つ法的意味と限界
- 刑事と民事で異なる立証基準と判断の仕組み
- 新潮社への法的責任追及と報道の自由との関係
- 2025年以降の民事訴訟の現状と今後の展望
伊東純也名誉毀損訴訟の全体像
刑事から民事へ展開した法的構造
伊東純也選手の訴訟は、刑事と民事の二つの法的手続きが並行して進行した事案です。
2024年1月31日、週刊新潮が性被害の告発記事を掲載しました。
これを受けて双方が刑事告訴に踏み切り、同年8月9日に大阪地検が双方を嫌疑不十分で不起訴としています。
刑事手続きとしては、証拠が不十分で起訴できないという判断でした。
一方、民事訴訟は2024年2月に伊東選手側が提起しています。
「虚偽の告訴によって名誉を毀損され、日本代表離脱やスポンサー契約解除などの損害を被った」として、女性2人に対し約2億円の賠償を求める内容です。
刑事が終結しても、民事は独立した手続きとして継続されます。
2億円賠償請求の内訳と法的根拠
賠償額の内訳は、具体的な経済的損失と精神的苦痛の二つに分けられます。
伊東選手側の主張によれば、週刊新潮の報道後、日本代表から離脱し、複数のスポンサー契約が解除されました。
プロサッカー選手にとって、これらは収入の大きな柱です。
逸失利益として、今後得られたはずの収入を積算した額が請求の中心となっています。
加えて、名誉毀損による精神的苦痛も損害として主張されています。
公の場で性加害者として報道されたことによる社会的評価の低下は、金銭では測りきれない部分もあるでしょう。
しかし民事訴訟では、こうした無形の損害も金額に換算して請求することが認められています。

刑事事件の完全終結が意味するもの
検察審査会「不起訴相当」の法的評価
2025年1月23日、大阪第2検察審査会が双方について「不起訴相当」と議決しました。
検察審査会は、検察の不起訴処分に不服がある場合に、市民の視点から再検討する機関です。
伊東選手側は女性2人の不起訴に、女性側は伊東選手の不起訴に、それぞれ不服を申し立てていました。
審査の結果、いずれも「起訴に足る証拠は認められない」という結論に至っています。
この議決により、刑事事件としての捜査は完全に終結しました。
双方とも刑事責任を問われることはありません。
ただし、これは「無罪」や「無実」を証明するものではない点に注意が必要です。
あくまで「刑事裁判を開くだけの証拠がない」という判断に過ぎません。
👉関連記事:【不起訴】佐野海舟不祥事の真相|逮捕から代表復帰まで完全解説
刑事と民事の判断基準の決定的な違い
刑事と民事では、立証に求められる基準が大きく異なります。
刑事訴訟では「合理的疑いを超える証明」が必要です。
これは非常に高いハードルで、少しでも疑いが残れば有罪にはできません。
人を罰するには、それだけ厳格な証明が求められるということです。
大阪地検が不起訴とした理由も、この基準をクリアできなかったためと考えられます。
対して民事訴訟では「優越的蓋然性」という基準が用いられます。
簡単に言えば「どちらの主張がより確からしいか」を天秤にかけて判断する仕組みです。
刑事より低い基準で判断されるため、刑事で不起訴でも、民事では責任が認められることがあります。
35年間、社会科を教えてきた経験から言えば、この違いを理解することは、法治国家の仕組みを知る上で極めて重要です。
【表:刑事処分と民事訴訟の法的評価の違い】
| 項目 | 刑事処分 | 民事訴訟 |
|---|---|---|
| 判断主体 | 検察官→検察審査会 | 裁判官 |
| 立証基準 | 合理的疑いを超える証明(高い) | 優越的蓋然性(相対的に低い) |
| 判断対象 | 犯罪の成否 | 不法行為と損害の有無 |
| 本件の結論 | 不起訴相当(2025年1月) | 審理継続中(2026年1月時点) |
| 処分の意味 | 刑事責任なし≠無実 | 民事責任の有無を判断 |
(出典:刑事訴訟法・民事訴訟法の原則をもとに筆者作成)
民事訴訟で争われる核心的争点
性行為の有無をめぐる立証責任
民事訴訟で最も重要な争点は、性行為の有無そのものです。
伊東選手側は「性行為自体が存在しない」と主張しています。
一方、女性側は「泥酔状態で同意なく性被害を受けた」と訴えています。
主張が真っ向から対立しており、どちらの証拠がより信憑性を持つかが焦点となります。
立証責任は、原則として主張する側にあります。
この訴訟では、伊東選手側が「虚偽の告訴がなされた」ことを証明しなければなりません。
つまり、女性側の主張が虚偽であることを、客観的な証拠で示す必要があります。これは容易ではありません。
物証や第三者の証言がどれだけ提出されるかが、判決を左右する要素になるでしょう。
虚偽告訴と名誉毀損の因果関係
もう一つの争点は、告訴と損害の因果関係です。
伊東選手側は、虚偽の告訴が報道され、それによって代表離脱やスポンサー契約解除が起きたと主張しています。
しかし女性側は、損害の原因は告訴ではなく、伊東選手自身の行為にあると反論しているはずです。
因果関係の立証は、損害賠償請求の成否を決める重要な要素です。
「AがあったからBが起きた」という流れを、合理的に説明できなければなりません。
契約解除の判断に、告訴がどの程度影響したかを証明することが求められます。
この点について、裁判所がどう判断するかが注目されます。

【表:伊東純也選手訴訟における3つの法的争点】
| 争点 | 伊東選手側の主張 | 女性側の主張 | 法的論点 |
|---|---|---|---|
| 性行為の有無 | 性行為自体が存在しない | 泥酔状態で同意なく性被害 | 事実認定・証拠の信憑性 |
| 告訴の真偽 | 虚偽告訴による名誉毀損 | 真実の被害申告 | 立証責任の所在 |
| 損害の発生 | 代表離脱・契約解除で2億円損失 | PTSD診断・二次被害の苦痛 | 因果関係の立証 |
(出典:報道された主張内容をもとに筆者作成)
報道機関の法的責任と表現の自由
新潮社への刑事告訴と不起訴の意味
伊東選手側は、女性2人だけでなく、週刊新潮を発行する新潮社に対しても法的措置を取っています。
2024年8月1日、伊東選手側は新潮社と編集者ら5人を名誉毀損罪で東京地検に刑事告訴しました。
「十分な裏付け取材をせずに虚偽の内容を報道した」というのが告訴理由です。
しかし2025年2月5日、大阪地検はこの告訴についても不起訴処分としています。
不起訴の理由は公表されていませんが、報道機関には「取材・報道の自由」が憲法で保障されており、簡単には名誉毀損が成立しないという事情があります。
報道内容が虚偽であっても、取材過程で相当の注意を払っていた場合、刑事責任は問われにくいのです。
取材・報道の自由と名誉毀損の境界
報道の自由と個人の名誉保護は、常に緊張関係にあります。
判例によれば、報道機関が名誉毀損で責任を負うのは、①内容が虚偽であり、②取材が不十分で、③公共性・公益性がない場合とされています。
新潮社の報道が、この3要件を満たすかどうかが、法的責任の分かれ目になります。
ただし刑事で不起訴となっても、民事では別の判断がなされる可能性があります。
伊東選手側が新潮社に対して民事訴訟を起こしているかは、現時点では確認できていません。
しかし、報道被害を訴える民事訴訟は今後も増えていくでしょう。
表現の自由と名誉保護のバランスをどう取るか。この問題は、社会全体で考え続けなければならないテーマです。
2025年以降の展開と現状

民事訴訟の審理状況と非公開原則
2024年11月26日の第1回口頭弁論以降、民事訴訟の具体的な進展は報道されていません。
民事訴訟は原則として非公開です。当事者が公表しない限り、審理の内容や進行状況は外部に漏れません。
判決が出れば報道される可能性が高いですが、現時点では和解交渉中なのか、審理が継続しているのか、確認できる情報はありません。
2024年11月の報道では、女性側が「2000万円の和解金提示を拒否した」と述べています。
和解交渉が決裂したのであれば、今後も審理が続く見込みが高いでしょう。
判決が出るまでには、さらに時間がかかると考えられます。
【表:伊東純也選手訴訟の時系列と法的結論】
| 時期 | 出来事 | 法的処分・判断 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 2024年1月31日 | 週刊新潮が性被害報道 | – | 事案の公表 |
| 2024年2月 | 伊東選手が女性提訴 | 民事訴訟提起 | 約2億円請求 |
| 2024年8月9日 | 大阪地検の処分 | 双方を不起訴(嫌疑不十分) | 刑事立件見送り |
| 2024年11月26日 | 第1回口頭弁論 | 女性側は請求棄却求める | 民事訴訟開始 |
| 2025年1月23日 | 検察審査会議決 | 双方とも「不起訴相当」 | 刑事事件完全終結 |
| 2025年2月5日 | 新潮社側処分 | 編集者ら5人不起訴 | 報道側も刑事責任なし |
| 2025年2月以降 | 民事訴訟継続 | 審理状況非公開 | 判決・和解は未確認 |
(出典:報道資料および裁判資料をもとに筆者作成 2026年1月時点)
スポーツ界と報道責任への影響

この訴訟は、スポーツ界と報道機関の双方に大きな影響を与える可能性があります。
スポーツ界では、不起訴処分後の選手の扱いが問題となっています。
伊東選手は2025年10月に日本代表に復帰しましたが、佐野海舟選手のケースと同様に、不起訴という刑事処分の結果が復帰の判断材料となっています。
今後、こうした事例が増えれば、各競技団体は統一的な基準を作る必要に迫られるでしょう。
一方、報道機関にとっても、この訴訟は重要な先例となります。
性被害の告発記事は、被害者保護の観点から慎重な取材が求められる一方、誤報であれば巨額の賠償責任を負うリスクがあります。
取材の自由と責任のバランスを、改めて問い直すきっかけになるかもしれません。
データの裏にある構造を読み解くことの大切さを、35年間の教師経験を通じて実感してきました。
法的判断の背景には、常に社会の価値観が反映されています。
Q&Aで振り返る伊東純也名誉毀損訴訟
Q1:検察審査会で「不起訴相当」なのになぜ民事訴訟は続くのか?
検察審査会の議決は刑事処罰の可否を判断するものです。民事訴訟は不法行為による損害賠償を求めるもので、刑事より低い立証基準で判断されるため、並行して争うことができます。
Q2:「不起訴相当」は無罪を意味するのか?
いいえ。「不起訴相当」は「起訴に足る証拠がない」という意味であり、無罪や無実を証明するものではありません。刑事と民事では判断基準が異なります。
Q3:2億円という賠償額の根拠は何か?
日本代表離脱、スポンサー契約解除、精神的苦痛などを積算したもので、逸失利益や社会的評価の低下が損害として主張されています。裁判所がこれを認めるかが焦点です。
Q4:2025年2月以降の民事訴訟の状況は?
具体的な審理状況は報道されていません。民事訴訟は原則非公開であり、判決が出るまで進展が明らかにならないことが一般的です。
Q5:新潮社への法的責任はどうなったのか?
刑事告訴については2025年2月に不起訴処分となりました。ただし民事で報道責任を問う訴訟が提起されているかは確認できていません。
筆者紹介|なおじ
元社会科教師として35年間教壇に立ち、生徒たちに法制度や社会の仕組みを教えてきました。
現在は8つのブログで、ドラマ・芸能・政治・歴史・スポーツ・旅・学び・書評を書いています。
政治や法律の記事では、「データの裏にある構造」や「制度の歴史的背景」を丁寧に解説するスタイルを心がけています。
教師時代に培った「わかりやすく伝える力」を活かし、読者の皆さんに社会の仕組みを理解していただけるよう努めています。